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墨田簡易裁判所 昭和46年(ろ)108号 判決

被告人 杉山孝弘

昭二二・二・一六生 自動車運転手

主文

被告人を罰金五、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

右罰金に相当する金額を、仮に納付すべきことを命ずる。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は昭和四六年三月一五日午前一一時四五分ごろ、東京都公安委員会が道路標識によつて最高速度を三〇キロメートル毎時と定めた東京都大田区西蒲田二―七番地附近道路において、右最高速度をこえる四七キロメートル毎時の速度で普通自動車を運転したものである。

(証拠の標目)(略)

(法律の適用)

法律に照すと、被告人の判示所為は道路交通法第六八条、第二二条第二項、第九条第二項、第一一八条第一項第三号、同法施行令第七条、罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その罰金額の範囲内で被告人を罰金五、〇〇〇円に処し、刑法第一八条により右罰金を完納することができないときは、金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、なお検察官の請求により、刑事訴訟法第三四八条に則り右罰金に相当する金額を仮に納付すべきことを命じ、訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項但し書を適用し被告人に負担させないことゝする。

刑事訴訟法第三三八条第四号についての判断

本件は、被告人の公判廷における供述、交通事件原票、及び捜査報告書(司法警察員谷古宇鶴吉作成)によれば、昭和四六年三月一五日警察官が被告人を反則者と認め、被告人に対し告知したが、七日以内に反則金相当額の仮納付をせず、通告のため指定された三月三十日の期日にも出頭しなかつたので、警視庁新橋通告センターから四月一〇日、告知書に記載された被告人の住所大田区久ヶ原二―二―四大同交通宛配達証明郵便に付して通告手続をしたが、退職居所不明として返戻され通告ができなかつたこと、警視総監が五月八日、再調するもその居所が不明のため通告ができなかつたものと認定し、所在を異にする墨田区錦糸町の警視庁交通執行課に事件の送致手続を進めたが、五月一〇日被告人の任意出頭により居所が判明し、改めて通告の手続を行うことなく三者即日処理方式で公訴が提起され、同時に略式命令の請求がなされ、事件が略式命令をすることが相当でないものとして通常の規定に従い審判するに至つたものであることが認められる。

ところで道路交通法第一三〇条第二号によれば、反則者に係る刑事々件の訴訟条件について、反則者の居所が明らかでないため通告をすることができなかつたときは、直ちに公訴の提起ができることを規定している。そこでこの点に関する警視総監の認定の当否について検討するに、前記の証拠によれば、被告人が告知を受けた後当時の勤務先を退職し住居を変えたことは事実であり、通告センターで被告人の居所について再調したが不明であつたことが認められる。従つて、右の認定が不当であつたということはできない。また警視総監が、反則者の居所が明らかでないため通告ができなかつたことの認定をしたときは、その時点より事件は検察官に送致する段階となり、その段階で反則者の居所が明らかとなつても再通告を要せず、そのまゝ公訴の提起ができるものと解する。

されば本件について、前記の認定後反則者である被告人の居所が判明したのに再通告手続を行うことなく、公訴提起並びに略式命令請求に及んだことは何等違法な点はなく、簡易迅速処理の趣旨に添う所以である。

よつて、主文のとおり判決する。

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